愛されすぎて嫌になる、ラフマニノフの「鐘」

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 偉大な作曲家セルゲイ・ラフマニノフ(Sergei Rachmaninoff)。
 彼の名を世界に轟かせた作品といえば、何を思い浮かべるでしょうか?

 彼のピアノ協奏曲第2番、3番、ヴォカリーズまたはエチュードを挙げる人もいるかもしれません。
 しかし、その初期の傑作、前奏曲 嬰ハ短調 Op.3-2、通称「鐘」を挙げることに多くの方がご賛同いただけるでしょう。

 演奏はキーシンです。

 暗く、荘厳な響きと激情を併せ持つこの作品は、発表当時から爆発的な人気を博しました。
 しかし、この作品のあまりにも突出した名声が、なんと作曲家自身を苦しめる原因となっていたというのです。
 今日は、そんなエピソードをご紹介しましょう。

 ラフマニノフがこの前奏曲を作曲したのは、まだ19歳の若さでした。
 1892年にモスクワで初演されるや否や、聴衆は熱狂。
 その劇的な響きはすぐに広まり、楽譜は飛ぶように売れました。

 特にアメリカでの人気はすさまじく、ラフマニノフがアメリカで演奏会を開くようになると、彼は聴衆からのある「呪縛」に直面します。

 伝説的なピアニストでもあったラフマニノフが、世界各地でリサイタルを開くと、アンコールを求める聴衆から、決まって大きな声でリクエストが飛び交いました。

 それが、「C sharp minor」(嬰ハ短調)です。

 彼は、壮大な協奏曲や、技巧を凝らした他の前奏曲集(Op. 23やOp. 32)など、多様な作品をプログラムに入れていました。
 にもかかわらず、聴衆が本当に聞きたいのは、この短い、しかし強烈な印象を持つ一曲だけなのです。

 彼は晩年、友人たちに対し、「演奏旅行に出ると、いつも『鐘のなる男』として扱われるんだ」とこぼしていたといいます。
 彼にとって、このリクエストは、他の作品が正当に評価されていないことの証であり、大きなストレスとなっていました。
 この「鐘」ですが、ラフマニノフの卒業研究で作曲した幻想的小品集・5曲の内の2番目の曲で、2番以外にも良い曲があるのに、何故2番だけなのか?と言う疑問もあったと思います。

ちなみに、幻想的小品集は下記の5曲です。
1.エレジー(自分でも演奏してみました)
2.鐘(しばらく弾いてないけど、もう一回練習してみようかな・・)→これ
3.メロディ
4.道化役者
5.セレナーデ(不思議な音、正に幻想的、私のお気に入りの内の一つです)

 ラフマニノフがこの曲を嫌ったもう一つの理由は、経済的なものです。

 若き日にこの曲を出版した際、彼はこの曲が持つ世界的な潜在能力を予想していませんでした。
 初期の契約では、彼が得た報酬はごくわずかだったと言われています。

 さらに、当時の著作権管理は現代ほど厳しくなく、ヨーロッパやアメリカでは、作曲家の許可なく海賊版の楽譜が大量に出回り、出版社だけが利益を得るという事態が発生しました。

 彼は、自身の名前を世界に広げた作品でありながら、それに見合う経済的恩恵をほとんど受けられなかったのです。
 この悔しさもまた、「鐘」に対する複雑な感情の一因となりました。

 「鐘」への不満は強かったものの、ラフマニノフは生涯にわたってこの曲を演奏し続けました。
 それは、彼がプロの音楽家として、聴衆の期待に応える義務を感じていたからです。

 彼はこの作品を「私の人生の最初のページ」と呼び、初期の創作意欲の象徴として、心の中では大切に思っていたことでしょう。

 不朽の名作に苦しめられたというこのエピソードは、彼の繊細で、しかし誇り高い作曲家としての側面を浮き彫りにしています。

 ラフマニノフの前奏曲は他にも良い曲がそろっているのでご興味のある方は聞いてみてください。
 きっとあなたのお気に入りが見つかると思います。

 ラフマニノフ前奏曲&エチュード全曲

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